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競馬のはずれ馬券が経費になるかどうかで争われた判例があります。有名な判例なので知っている方も多いかもしれませんが事業所得についての考え方の勉強になるので見てみましょう。
はずれ馬券は経費になるのか・ならないのか?~最高裁判例から学ぶ~
当たり馬券とはずれ馬券が1日のレースの間に出てきます。
競馬をする人は1日トータルで儲かった・損をしたという感覚が強いと思います。
その日のトータルで勝ち越した・負け越したで精算している感覚だと思いますが、税務上は違うのです。
税務上の原則は当たり馬券の購入費用と当選金が対応しているのであって、はずれ馬券は考慮しない(損として認めない)ということになります。
これが今までの競馬に関する所得税法の考え方です。
なぜこのような考え方があったのかというと所得税法のクセが影響しているのです。
競馬による所得は一時所得~争いが始まるきっかけをみる~
所得税法は利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・一時所得・雑所得・譲渡所得・退職所得・山林所得など所得の種類ごとに所得区分というものを設けています。
所得税は個人に対して課税する税金ですので人に関する配慮を持った税制というわけです。
そこで収入があった場合に、どういう性質の収入かによって課税の仕方を変えているのです。
法人であれば原則としては儲けのために行っているという考え方なので収益はひとくくりで儲けとして扱います。
個人の場合には儲けるためだけに行っているものだけではなく、突発的に入ってくる入金などもあります。
個人に対しては「たまたまの入金」と「恒常的に入ってくる事業などの利益」を同じ税金計算しないように計算方法を変えています。
例えば、退職金は退職所得という所得区分とされています。
退職金は一生に何度ももらうものではないので税負担が小さくなるように計算方法が定められています。
所得区分は変わりますが、懸賞などで当選した場合やふるさと納税の返礼品は一時所得というものに該当します。
同じ一時所得には生命保険の満期返戻金や解約返戻金というものも定められています。
今回問題になった「競馬の当選金」もこの一時所得に該当すると定められていたのです。
①一時所得は税負担が小さくなる算式で計算される仕組みになっている
実際に計算式を見ていただくと、税負担が小さくなるように設計されていることがわかります。
一時所得は滅多にもらうものではないので次のように計算式が作られています。
一時所得の金額={収入金額-その収入を得るために支出した金額-特別控除(最高50万円)}×1/2
生命保険を例にいうと次のようになります。
①生命保険の解約金2,000万円
②生命保険の支払済保険料 1,500万円
③(2,000万円―1,500万円―50万円)×1/2=225万円(課税対象)
儲けが500万円だったのに税金対象は225万円まで小さくなるという計算式なので税負担が小さいことがわかると思います。
事業所得の場合には一時所得のような1/2を掛ける計算はありません。
儲かった利益から青色申告特別控除を引くくらいしかいいことがないのです。
では、なぜ今回競走馬の当たり馬券を一時所得ではなく事業所得として争ったのでしょうか?
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②1/2するところではない部分に落とし穴があった
一時所得は儲けの部分から50万円の特別控除を引いて、さらに1/2してくれるというありがたい計算式です。
ところがその前段階に大きな落とし穴があったのです。
一時所得の金額={収入金額-その収入を得るために支出した金額-特別控除(最高50万円)}×1/2
赤字で書いている部分が曲者だったのです。
その収入を得るために直接要した金額しか、収入から引いてはダメという規定だったのです。
「競馬で儲けるために馬券を買うのだから、競馬購入金額は経費になる」と思いますよね。
普通の感覚だったらそう思ってしまって不思議はありません。
一時所得の当たり馬券のために馬券を購入するのだから、馬券購入費用は全部経費だと。
念のために本当の一時所得の条文を見ておきましょう。
所得税法34条(一時所得)
一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
条文の括弧書きに「直接要した金額に限る」という一文があります。
これで競馬の当選金と対応関係にあるのは当たり馬券だけということになってしまいます。
1億円の当選金が1,000円の馬券であれば、今までに外して損をした数百万円・数千万円は経費にならないということになります。
これではずれ馬券だって経費になるはずだということで、争いが始まりました。
競馬による当選金を一時所得では争わなかった~雑所得として認められた~
競馬の当選金のはずれ馬券を一時所得の中で争ったのでは勝ち目がありませんでした。
条文通り税務署は運営しているのではずれ馬券が経費になるわけがないのです。
そこで、このケースでは所得区分を一時所得ではなく、雑所得として争いました。
結果として最高裁で雑所得として認められたわけですがその根拠を見ていきましょう。
雑所得として認められた根拠をみる
①馬券を自動的に購入できるソフトを利用(市販ソフト)
②長期間にわたり多数回・頻繁に網羅的な購入(毎週土日の中央競馬すべての競馬場のほとんどのレースで購入)
③インターネット上の競馬情報配信サービス等から得られたデータを自ら分析した結果をソフトに条件設定
④③の結果をもとに自ら作成した計算式によって購入額を自動的に算出
⑤1日あたり数百万から数千万円(1年あたり10億円前後)の馬券購入
⑥当たり馬券発生の偶発的要素を可能な限り減殺するようとている
⑦個々の馬券的中での返戻金目的ではなく、長期的に返戻金合計と馬券購入代金の合計の差額利益を目的としている
裁判所の判断には一時所得の条文定義も出てきた!
所得税法34条1項
一時所得とは,利子所得,配当所 得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所 得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務そ の他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」
この条文から営利を目的とする継続的行為から生じた所得は一時所得ではないということになりました。
営利目的・継続行為かどうかで争うことになったわけです。
税務署側の営利を目的とする継続的行為から生じる所得か否かの判断基準
①競馬購入は社会通念上一定の所得をもたらすとはいえない賭博の性質がある
②購入の態様に関する事情は関係ない(人為的だろうがソフトを使おうが関係ない)
税務署側の営利を目的とする継続的行為から生じる所得か否かの判断基準
①営利目的・継続的行為は「期間・回数・頻度・その他の態様・利益の発生規模・期間その他の状況等の事業を総合考慮して判断するのが相当」
②所得税法の沿革からみて所得や行為の本質の性質を本質的な考慮要素として判断すべきと解釈されていない
(性質が賭博だからなどと判断基準に含めるべきではない)
③所得税法の趣旨・目的に照らし、所得及びそれを生じた行為の具体的態様も考慮すべき
まとめ
はずれ馬券は経費になると早とちりしないように注意してください。
同じ馬券購入ということでも期間・回数・頻度・購入方法・金額など様々なものを総合的に判断した結果雑所得として認められています。
ただ単に競馬が好きで購入金額が大きいだけではダメです。
競馬ソフトや分析ソフトを使って大規模にトータルゲインが大きくなる投資として行っている場合には一時所得ではなく雑所得に該当する場合もあります。
詳しくは税理士さんに相談しておきましょう。
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